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ここでは私が読んだ本(主にミステリ)についての感想をアップしていきます。
現在12作品の感想が公開されてます。※左フレームが出てない人は コチラ からトップページへ



基本的にネタバレしないように努力しています。どうしてもネタバレするときは反転して読むようにしていますのでよろしくお願いします。一つの基準として本格ミステリであるならば、いわゆる問題編に該当する箇所はネタバレには値しないと考えておりますが、それでも未読の方の楽しみを奪うようなことはないようにしております。

★Index

国内ミステリ
『神様ゲーム』麻耶雄嵩
『ある閉ざされた雪の山荘で』東野圭吾
『悪意』東野圭吾
『螢』麻耶雄嵩
『アルファベット・パズラーズ』大山誠一郎
『生首に聞いてみろ』法月綸太郎
国内その他
『新興宗教オモイデ教』大槻ケンヂ
『蠱猫 人工憑霊蠱猫01』化野燐
海外ミステリ
『恋するA・I探偵』ドナ・アンドリュース
『A型の女』マイクル・Z・リューイン
『蜘蛛の微笑』ティエリー・ジョンケ
海外その他
『文学刑事サーズデイ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!』ジャスパー・フォード


『悪意』東野圭吾(著)★★★★★★

★あらすじ

人気作家の日高邦彦が殺された。第一発見者は幼馴染で作家の野々口修。野々口の教師時代の同僚で、現在は刑事である加賀恭一郎は、事件解決に赴く。犯人は加賀の手によって逮捕されるのだが、けしてその動機を語ろうとはしない。一体、犯人が語らない動機とは何なのか?

★巧妙なプロット・仕掛け

手記、記録、独白で作品のほとんどが成り立っている。この行間をいかに読ませるかというのは非常に難しいことだ。だが、この構造が非常に秀逸で、あっと驚く大仕掛けと言うよりも、じわじわと利いてくるボディブローのような仕掛けが施されている。わりと淡々としているように思わせて、二重にも三重にも罠が施されてるのは、「何かあるだろう」とは思っても、普通は気づけないところだ。ここらへんがいかにも職人芸といった感がある。

★「人間を描く」とは何か?

「人間が描かれていない」とはしばしば本格ミステリの欠点として挙げられる。そもそも、本格ミステリにおける犯人当てのようなものは計算可能でなければ読者には解決のしようがない。そのため、登場する人物は合理的な行動を取り、人間らしいきまぐれな部分はそぎ落とされる傾向にある。また、計算の上で人物を駒と見立てる必要が生じるため、彼らの人間性は時としておざなりになることがある。

もちろん、こうした本格ミステリの発展上、こうした問題は無視され続けたわけではなく、様々な試みにより解決法を見出そうとされた(ガチガチの本格コードにこだわらなければ、それは容易に解決されるであろう)。

「悪意」はそれを踏まえたうえで、読者にミステリにおける「人間を描く」こととは何なのかを、本格コードにこだわりつつもまるごと仕掛けとして読者に突きつけてくる。もはやこうしたこだわりや「人間が描けていない」という指摘自体時代遅れなのかもしれない。「悪意」は96年に書かれた作品であるが、いまも本格ミステリとは何か求め続ける作家と読者がいる以上、こうした作品は無視できないのではないか。

★職人気質ゆえに……

ただ、そうした本格ミステリへのこだわりゆえかエンターテインメント性で若干欠けるものがある気がするのも否めないところだ。全体的に無味乾燥に映る読者もいてもおかしくないだろう。東野の作品(特に初期)にいえることだが、あまりにも職人芸すぎて読者に強い印象を残せないといった感が拭いがたい。なにかパンチの利いた設定でもあればもっと強く薦められる作品になるのだろう。

ミステリとしては高く評価できるものの、やはり「惜しい作品」だと思ってしまった。

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『A型の女』マイクル・Z・リューイン(著) 石田 善彦(訳)★★★★★★☆

70〜80年代のネオハードボイルドの騎手、マイクル・Z・リューインのデビュー作。シリーズとしては本作からなる私立探偵アルバート・サムスンもののほかにそこからスピンアウトしたパウダー警部補ものがある。

★あらすじ

お願い、わたしの生物学上の父を探して―。閑散としたオフィスに突然飛び込んできた少女にサムスンは面食らった。大富豪クリスタル家の一人娘が、血液型から自分は実の子ではないことが判明したと涙ながらに訴えるのだ。さっそくクリスタル家の系譜を探り始めたサムスンは、こころならずも名家の巨富をめぐる醜悪な争いに巻き込まれてゆく。暴力を憎む心優しき知性派探偵アルバート・サムスン、文庫初登場。改訳決定版。

★庶民派探偵、アルバート・サムスン

本作の主人公はハードボイルド小説の多分にもれず私立探偵なのですが、彼はレイモンド・チャンドラーが生み出したフィリップ・マーロウのようなタフな探偵とは違って、とても庶民的な探偵です。何せ、銃は怖がる、酒よりオレンジジュースが好き、うっかりミスは犯すと、とてもじゃありませんがそれだけ聞くとヒーローとは思えません。

しかし、彼はとても誠実な男であり、自分の信念を曲げようとしません。この事件の中で彼は手を引く選択をすることも出来ました。そうしても誰も傷つくことはなく、この事件自体なかったことになるはずでした。ですが、彼は全てを明るみに出すことをやめようとしません。つまりは彼はそういう男なのです。

腕っ節が強いわけでもなく、タフでもない探偵。それでも魅力的に見えてしまうというのは明らかにリューインの文章の上手さにあるといえるでしょう。

★語り口の妙

地の文の書き方は主人公の一人称からなる、典型的なハードボイルドタッチといえるのですが、他の小説と比べても非常に抑制された文体だと思います。文章自体がとても計算されていて、余計な部分がほとんどありません。

また、プロットも謎解きの側面を意識していて、地道な情報収集が意外な事実を明るみにしていくというのは過程は違えど、本格ミステリのような味わいがあります。

★何がおもしろいと感じさせるのか

先ほどは文章力とプロットの秀逸さについて述べましたが、読んでいておもしろいと感じさせるのはどんな点なのでしょうか。結論から言ってしまえば、それは主人公の感情の動きではないかと思います。彼は捜査の合間に、そして見つけた事実に対して、様々な葛藤を抱きます。彼は最終的にその信念を曲げることはありませんでしたが、そこに至るまで何度も煩悶することになります。

また、依頼人の15歳の少女に対する複雑な感情が胸を打ちます。この探偵と少女というモチーフはハメット、チャンドラーにはなかったものだと思うのですが、それはサムスンのような探偵だから似合うのでしょうね。サム・スペードやマーロウでは子供を相手にはしないでしょうから。

★終わりに

ハードボイルドにしては意外と普通に読めて驚きでした。ハードボイルドは読みにくいという印象が未だにあるので。こういう作品からハードボイルドに入る方がスマートにいくのではないでしょうか。もっとも御三家(ハメット、チャンドラー、ロスマク)も好きなんですけど。サムスンの良い意味での普通さはとても共感ができて好印象でした。またラストの意外な展開も予期してなかっただけに純粋に驚きました。

ハードボイルドだから、海外ものだからと言わずに是非とも読んでいただきたい作品。続編も気になるところです。

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『新興宗教オモイデ教』大槻ケンヂ(著)★★★★★★☆

オーケンこと大槻ケンヂといえば元筋肉少女帯のボーカルで現在は「特撮」というバンドでイカス曲を作り続けるパンクロッカーであり、今では「グミ・チョコレート・パイン」などの小説やエッセイでも活躍中です。

そんなオーケンの小説デビュー作といえば、本書、「新興宗教オモイデ教」なのです。かねがね噂には聞いていましたが、このたび偶然手にする機会があったのでレビューしたいと思います。

★あらすじ

1カ月前に学校から消えたなつみさんは、新興宗教オモイデ教の信者になって再び僕の前に現れた。彼らは人間を発狂させるメグマ祈呪術を使い、怖るべき行為をくりかえしていた―― 狂気に満ちた殺戮の世界に巻き込まれてゆく僕の恋の行方は? オドロオドロしき青春を描く、著者初の長編小説。

★青春の高校生時代?

読んでいる間、まるで高校生に戻ったような感覚がしました。やりたいこと、やるべきことが見つからず、煩悶としながら、その癖、エネルギーばかりが有り余っている。しかも考えることはバカなことばっかりでろくなことはしない。その癖、傷つきやすく、他者との距離に戸惑いを覚える。そんな、アンバランスでナイーブな男子高校生の内面を実に上手く表現しています。

余談ですが、こればっかりは主観的な見方になってしまうのですが、実際にそれに近い高校生活を送った者にとってはほとんど無条件で懐かしさを覚えてしまうのです。

★美しさと醜さと

おそらく、この小説にでてくる主要な登場人物はみなある種の愚か者であり、日常という枠組みにとどまることの出来なかったアウトサイダーです。彼らは常人より秀でた能力をもっていますが、一般社会の内では理解されえないつまはじきものです。

特に、もとバンドマンで無軌道な破壊衝動を抱える中間と、かつて彼とともにバンドを組んでいたが失踪してしまったゾン、この二人のタガの外れ方は実に異様で、作中でもとびきりけばけばしく異彩を放っています。

彼らのレールからはずれて暴走し続ける生き様、そしてそれに巻き込まれながらも、そこに不思議な共感や魅力を感じている主人公。そうした人物やその環境をとても歪んだものに描いてしまうことで、全体の世界観を独特のものへと仕立て上げています。それがドロドロでありながらもセンチメンタルで、美しいものと醜いものが混沌としたオーケンワールドとして成立してしまっていることが驚きを禁じえません。

★ラストをめぐる悩み

この手の青春小説というか、非日常巻き込まれ型の小説は終わり方が数パターンが考えられると思います。一つ目は、主人公が暴走の果てに死んでしまう、或いは取り返しのつかない事態になってしまいフェードアウトという形。二つ目は、主人公は非日常に生きる目的を見つけ、日常には帰還しない形。三つ目は、非日常を過去のものとし日常に帰るという形。

この作品がどの結末に終わるかは想像にお任せするとして、問題はその描き方が上手ければ後味が残る良作となりえるし、下手ならば陳腐な作品にとどまるということです。たとえば三つ目であれば、一体いままでのストーリーはなんだったのかということになるだろうし、一つ目ではあっけなく終わってしまい読者はおいていかれかねません。

では、二つ目が良いのかというとそういうわけでもなく、これはあまりにも主人公が日常から飛び出た人間となってしまい、読者が感情移入していた主人公はどこに行ってしまったのかということになります。

多分に、このどのパターンを選んでも上手い文章の書き手であれば、味のあるラストに仕上げるのではないかと思います。ですが、逆に言うとこの手の小説はそれだけ作家の腕が試されるのではないでしょうか。大槻ケンヂはそこを上手く乗り越え、作品を締めくくるラストに仕上げました。それがどういうかたちであれ読者に納得させるような文章力が彼には認められます。

こうした作品の空気自体に魅力を感じるような作品は稀有であり、まさに作家性なんだなと軽い驚きとともに思わざるをえませんでした。なかなか忘れようとも忘れられない作品。

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『蠱猫 人工憑霊蠱猫01』化野燐(著)★★★☆

筆者は『怪』や『ムー』などにに妖怪関係の論評やコラムをぽつぽつと載せていたそうです。小説としてはコレがデビュー作。

★あらすじ

妖怪を具現化する力を持つ妖怪図譜『本草霊恠図譜』。この禁断の書を学園内の土蔵で発見した美袋学園司書・小夜子に「有鬼派」と呼ばれる者達が次々と襲いかかる。本の力を使い、今在る世界を根底から覆そうとする「有鬼派」、凶悪な計画の全貌を知り、本を死守する小夜子。巨大学園都市を舞台に壮大な戦いが始まる。(本書裏より)

妖怪伝奇ホラーですね。小夜子の他には、「見えるはずのないもの」を見てしまう学生、白石優が主人公格です。

★感想

著者はこれが小説デビュー作。妖怪関係にとても詳しいようで、本作にもその知識が遺憾なく発揮されています。こうした知識と言うのは、悪く調理すれば過剰な衒学さで素人を置いてけぼりにしてしまうものなのですが、どうやら本作では妖怪の知識をベースに、あくまでそれをエンターテイメントとして昇華させるといった試みが見て取れます。

ですが、やはり小説を書きなれていないのか、どこか文章がぎこちなく、話のテンポが悪く感じます。特に前半の小夜子が主人公のパートと後半の優が主人公のパートのつながりなど、エピソードのつながりが悪く、ぶつ切れになっている気がします。

『本草霊恠図譜』や妄想記述言語、人工憑霊など細かな設定はガジェットとして魅力的だとは思いますが、いまいち消化しれているとは言い難く、とても残念でした。

全体的な評価として、ライトノベルとも妖怪小説とも言えない、なんとも中途半端な作品と言ったところです。タイトルに01とあるので続編は出るのでしょうが、次でそれらの不満点が解消されていなければ、以降は手にしないと思います。


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『螢』 麻耶雄嵩(著)★★★★★★★★

麻耶氏、久々の長編です。それも、今までの一連のシリーズとは別系列の作品。今まで麻耶作品を読んだことがない人でも安心して読めますね。まずはあらすじから。

★あらすじ

梅雨。大学のオカルトスポット探検サークルの六人は、京都府の山間部に佇む黒いレンガ屋敷「ファイアフライ館」へ、今年も肝試しに向かっていた。そこは十年前、作曲家でヴァイオリニストの加賀螢司が演奏家六人を惨殺した現場だった。事件発生と同じ七月十五日から始まる四日間のサークル合宿。昨年とちがうのは半年前、女子メンバーの一人が、未逮捕の殺人鬼”ジョージ”に無残にも殺され、その動揺をまだ引きずっていたことだった。ふざけあう悪趣味な仲間たち。嵐の山荘で第一の殺人は呪われたように、すぐに起こった・・・。

★麻耶作品と新本格作家の歩み

麻耶氏の作品と言えば、『翼ある闇』、『夏と冬の悲鳴曲』などに代表されるように、本格ミステリという形式を破壊しようとするようなラディカルな作品が印象に強いです。結局そうした作品は、新本格第一世代やその祖とも言える島田荘司らがおこした新本格と言う波を変質させる役割をになったといえるでしょう。

事実、94年には京極夏彦、翌年に西澤保彦、さらに翌年には森博嗣といった、それまでの論理的思考と謎の合理的解決に終始した、わかりやすい本格像の範疇から飛び越えるような作家が次々とデビューしています。さらにあとになるとメフィスト賞作家一号の森のブレイクが火をつけたのか、次々と受賞作家がデビューし、混沌とした時期に入ります。

99年前後に若干、以前の新本格にインスパイア(というか懐古?乃至はオマージュ?)された作家は見られたものの(殊能、霧舎など)、2001年からの舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新と言った作家らの著作ではすでにミステリは味付けの一部に過ぎなくなってしまっています。

現在では東京創元社のミステリフロンティアというレーベルから多様な作家が輩出されているようですが、どうも今ひとつ傾向を掴みづらいです。

そういった状況の中での麻耶の新刊、『螢』ですが、この作品にはこれまでの麻耶の持ち味と思われていた不条理さ、本格に対しての形式破壊はほぼ見られないといっていいと思います。

それどころか実に綺麗にまとまった真っ向勝負の本格作品に仕上がっています。舞台設定を見るにつけても、嵐の山荘、大学のサークルのメンバー、謎の殺人鬼、いわくある屋敷と新本格第一世代が好んで使っていたようなガジェットばかりですし、トリックについても、アンフェアなことはしていません。

それも旧来から使われるあるトリックを実に上手く捻って使われているのに驚嘆せずにいられませんでした。ただ、謎自体が単純だったのが残念と言えば残念。明らかなマイナス点であると思います。

★麻耶らしさとは……?

さて、そうした真っ向勝負は「麻耶らしくない、麻耶はどうしちまったんだ、ぷんすかぷん」と思われる方も当然いるのではないかと思います。ですが、私はある点において実に麻耶的であると言いたい。それは麻耶作品にあった青春小説の側面です。それも今までの作品どおり、さわやかな青春ものは言いがたい、いわば真っ黒な青春の部分です。

『螢』では、終盤とそれ以前では、青春の色合いがまったく異なります。その色合いの転換点こそが、読者までも巻き込む、それまで積み上げてきたものを突き崩すようなカタルシスになっていると言えるのではないでしょうか。これまでの作品でも「青春の裏切り」というテーマは繰り返し用いられてきたことからもこのスタンスは理解できると思います。

★最後に

一通り、感想は出尽くしました。特に青春小説としての側面を強調しましたが、ミステリとしての読みやすさ、トリックの意外さ、語られるストーリーの陰鬱な雰囲気など読みどころはたくさんあります。麻耶嫌いの人にもおすすめの一作と言えるでしょう。

結局、なんでこうまっとうになったかといえば、麻耶氏がひねくれものだからということではないでしょうか。かつての麻耶の役割を果たす人材はもう十分にいるのかもしれない。

本格ミステリの混沌期といえる現在において麻耶氏はいまだ貪欲に自分の書くべきミステリを探しているのだとしたら、私は喜んでそれについていきたいと思います。
2005/3/15 K-juro

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『アルファベット・パズラーズ』大山誠一郎(著)★★★★★★

新人発掘を手がけるミステリフロンティアから、またも本格ミステリ作家がデビューしました。 著者の大山誠一郎は京大推理研出身。翻訳家として何作かの作品を手がけていましたが、単行本をして刊行される自書はこれが初めて。2005本格ミステリベスト10では八位に入賞の期待作です。 さて、その中身は……

★あらすじ

東京、三鷹市の井の頭公園の近くに“AHM”という四階建てのマンションがある。その最上階に住むオーナー・峰原卓の部屋に集まるのは、警視庁捜査一課の刑事・後藤慎司、翻訳家・奈良井明世、精神科医・竹野理絵の三人。彼らは紅茶を楽しみながら、慎司が関わった事件の真相を解明すべく推理を競う。毒殺されるという妄想に駆られていた婦人を巡る殺人事件、指紋照合システムに守られた部屋の中で発見された死体、そして三転四転する悪魔的な誘拐爆殺事件―精緻なロジックと鋭利なプロット、そして意外な幕切れ。本格ミステリ界期待の俊英が満を持して放つパズラーの精華。(本書カバー裏より)

Pの妄想、Fの告発、Yの誘拐の三作からなる作品集。はい、この時点でミステリ好きならニヤリと来ますね。 しかし、オマージュとはいえ、Yはともかくとして、PとFですか。アレとアレなんでしょうがセレクションはこれでいいんでしょうか。PはPの密室? FはすべてがFになる? YはYの悲劇?

★良くも悪くも本格パズラー

まず、一番最初に読んだときの感想が島田荘司氏の臭いがするということでした。 それも、本格の良いテイストだけでなく悪いテイストも引き継いでしまっていると感じました。 非現実的とさえとれるトリックや動機は、まさに氏のそれをはじめて読んだときのような感触です。 短編の三作の動機はどれもちょっと常人では考えにくいものです。これが本格ミステリに慣れた人間、それも新本格世代であれば、この作品に対してある程度の納得はできると思います。しかし、そうでない人には無味乾燥に感じてもおかしくないでしょう。

無味乾燥と言いますのは、どうにも作中の人物の書き込みが甘いと思うからです。というのも、探偵役に当たる人物の性格や被害者や犯人の行動などに現実感を著しく感じないからというのが理由の一つです。単に「人が書けてない」というよりは物語をつくるのがやや不慣れなような気がします。よい素材でもそれをうまく見せることがあまり出来ていないのではないでしょうか。短編と割り切って、トリックに余計な部分をすっぱり切り落としたとも言えるのかも知れませんが、これはいくらなんでもさっぱりしすぎだと思いますね。

私個人は、本格は好きですけれども、やはりそこには何らかのテーマがあったり、登場人物や舞台に何かのエッセンスがある作品が好きなので、こうしたトリック一点張りという作品にはそこまでは入れ込めません。

★まだまだ伸びる逸材

たしかにトリックとプロットは見るものがあると思います。Pの妄想では、犯行のキーとなる被害者の行動は意外性のあるものですし、Yの誘拐の二転三転する真相や、誘拐ものと本格の融合など、実に小気味良いアイディアを持っています(Fの告発はやや単純)。特にYの誘拐は長編になりうる、大胆な作品ではないかと思います。

この作品は、それ自体で非常に満足できるかといえば疑問ですが、新人のデビュー作としてみれば上出来だと思います。 小説の腕はまだまだこれからでしょうから、そこさえ磨けば本格の担い手として大物になることが期待できるのではないでしょうか。 2005/2/16 K-juro

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『生首に聞いてみろ』 法月綸太郎(著)★★★★★★★★★

「このミステリがすごい!2005年度版」第1位、「週刊文春ミステリベスト10」第2位、本格ミステリ大賞候補作と留まる事を知らない今年度の注目作。読もう読もうと思っていて、結局買わずじまいでしたが中古本で見つけたのでついに入手。ありがとうブックオ(ry
 ということで、期待を胸にいざレビュー!

★あらすじ

首を切り取られた石膏像が、殺人を予告する―著名な彫刻家・川島伊作が病死した。彼が倒れる直前に完成させた、娘の江知佳をモデルにした石膏像の首が切り取られ、持ち去られてしまう。悪質ないたずらなのか、それとも江知佳への殺人予告か。三転四転する謎に迫る名探偵・法月綸太郎の推理の行方は―!?幾重にも絡んだ悲劇の幕が、いま、開く。(楽天ブックスの紹介より)

石膏像、首の切断、悲劇などなかなか本格好みの題材ですね。それでは感想にまいりましょう。

★いぶし銀の魅力

法月綸太郎と言う作家はアベレージヒッターである。

私はそんな風に彼を評価していました。けして、読むに耐えない低い水準のミステリは書かないけれどもイマイチパッとしない。同時期にデビューした作家と比べても綾辻、有栖川の二者ほど話題には登らないが、作品を読んでみるとそこそこおもしろい。これはあくまで私が勝手に感じていたところでなんですが、『生首〜』は良くも悪くもこの印象から遠ざかることはありませんでした。

読んでみて一番最初に感じた感想と言うと、まずは「丁寧な本格」ということです。 新本格というともう過去の言葉になってしまったような感があるが、こうした作品が書かれるのであればまんざら捨てたもんじゃない。特に、探偵である「法月綸太郎」が謎に突き当たるごとに真摯に分析していく過程が印象的だ。大掛かりなトリックに頼らず(もちろんそれが悪いということではない)緻密に論理を組み立てるさまは昨今の作品ではかなり珍しいのではないか。こうした丁寧な作りと言うのは、おそらく本格作品を理解し、愛しているからこそのものでしょう。さすが法月、期待は裏切らなかった。

★ロジック? トリック?

論理の緻密さという話題を出したが、どうも最近の作品は一発技の作品が多い気がします。特に叙述トリック。どの作品が該当するかは、言ってしまうと超ネタバレなので書名は出さないが、昨年度の本格で有名なアレといえばわかる人もいるでしょうか。わからない人は最近出た叙述トリックを用いた作品でも思い出していただきたい。(叙述トリックってなあにと言う人はこちら)どうにも、叙述トリックというのはいわば最後の手段であるような気がしてならないのです。というのは、叙述トリックのネタと言うのは、かなり制限があり、一度引っかかった人は二度と似たようなトリックにはひっかからないでしょうから。中にはこのトリックにこだわり続けて、あらたな方法を模索する作家もおりますが。何が言いたいのかといいますと、もはや叙述トリックくらいしか読み手をあっと言わせる手段はなくなってきているのではないかと言うことです。『生首〜』はけしてあっと驚く、意外な真相があるわけではないと言えるでしょう。もちろん犯人は意外な人物で、そこに至る経緯も手が込んでいるのですが、絶対に予想しなかった結末ではないと思います。ですが、サプライズの魅力だけがミステリではないのです。(断言してしまった…… たかだかミステリ暦ウン年の若造が)

★良作には違いないが……

いままで散々褒めてきましたが、ここで少し苦言を。確かに良作であることは間違いないのですが、どうにも気になるところがあります。やはり、一言で言ってしまえば「地味」かと。前項で言っていたことと矛盾するではないかと思われるかもしれませんが、どうにもこうにも謎をひっぱりすぎだと思います。ストーリーの展開とか動きがどうにも地味。結構プロットには気を使ってるようなのですが、淡々としていてパズルを解いているような気になることも。一応言っておきますが、人が書けてないとかそういう野暮なことではないですよ。おなじ本格の作品と比べてもなにかボリュームに欠ける。今回はどこかハードボイルドタッチ(ロスマク風と言っていいのかどうか)なのを意識したせいもあるんでしょうか。

★まとめ

綾辻や麻耶といった新本格世代の作家が新作を出す中で、やはり健闘した方でしょう。久々の本格でそのぶん好感触ではあるのですが、差し引いても十分の出来。だが、歴史に残る一作と言うほどではない。ここまでミステリランキングの上位に入ってくるとはちょいと驚きでした。意外といままで本格を読んだことのない人に向いているかも。無難に高水準であることは認めます。 2005/2/9 K-juro

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『蜘蛛の微笑』 ティエリー・ジョンケ(著)★★★★☆

フランスの本格推理作家がついに日本上陸。というほどでもないんでしょうけど、フランスのミステリ作家は、ポール・アルテくらいしか読んだ事がないので、正直まったく予想がつきません。そもそも、この本を読むことになった経緯というのも、サークルの後輩が私向けだと(半ば無理やり)貸してくれたものなわけで。一体、彼がどういう意味で「私向け」だと言ったのかは謎ですが、本格とあらば読まねばならないでしょう。

★あらすじ

外科医のリシャールは、愛人を眺める。他の男に鞭うたれ、激しく犯される姿を。日々リシャールは変態的な行為を愛人に強要し…無骨な銀行強盗は、警官を殺害してしまった。たりない脳味噌を稼働させる中、テレビ番組を観て完全なる逃亡手段を思いつくが…微笑みながら“蜘蛛”は、“獲物”を暗闇に閉じ込めた。自らの排泄物、飢え、恐怖にまみれた“獲物”を“蜘蛛”は切り刻んでゆく…三つの謎が絡む淫靡なミステリ。(Amazonのレビューより)

ええっと…… あらすじを見る限りでは、ポルノ以外の何物でもないって言いましょうか、あぶない感じですね。実際はそこまで直接的な表現はないです。

★ミステリとしては小粒? しかし……

正直なところ、ミステリとしての驚きはさほどありませんでした。少なくとも私には途中でネタが割れました。ネタバレにならない程度に内容説明をしますと、外科医のリシャールとその愛人エヴ、銀行強盗で逃亡中のアレックス、二人称(おまえ)で語られる謎の話、この三つのストーリーラインが並行に進められて行きます。このストーリーラインの収束の仕方は、ある点(以下ネタバレのため反転されたしエヴ=ヴァンサンと気づくにはヴァンサンが性転換された事実を知らなければならないですが、その伏線がリシャールが外科医というだけでは弱くないですか?)に目をつぶれば、きれいにはまとまっていますが、やはり少々物足りない気もします。もう少し、あっと驚く真相があれば満足でした。私が当初、予想していたオチは以下のようなものでした(ヴァンサン=ヴィヴィアーヌではないかと。ヴァンサンは性転換のショックで痴呆状態に、エヴの正体はかわりに捕まって性転換させられたアレックス)。さて、ここまでは特にミステリとしての真相に目をむけてきたわけですが、この作品の見るべき点は他の部分にこそあるのではないかと思います。

★謎の尽きない展開、不可解な人物たち

ミステリにおいて複数のストーリーラインの同時進行はけして珍しいものではなく、謎をうまく演出したり、読者を錯覚させるのによく使われます。本書ではこの謎のひっぱり方が実にきれいに決まっているといいますか、常に先が気になる展開になっていて、作者の力量を感じさせてくれます。ネタバレにならない程度に述べますと、まずは登場人物たちの不可解な行動があげられます。特にリシャール、エヴの関係はただの愛人関係ではないという仄めかしが少しずつあらわになっていく点は見所ではないかと。リシャールの変態的な行動ですらもある行動原理にしたがっていたのかとラストで判明します。気になる方は実際に読んでみてくださいね。

★まとめ

期待してなかった割には、なかなか楽しめました。新規に読まれる方はミステリだという先入観にとらわれないで読むのがいいですね。すでにミステリミステリと何度も書いといてアレですが(笑) もしかしたら、これは恋愛小説なのかも。フランスではすでに多くの作品が刊行されていて、そのいくつかは賞も受賞しているそうなので、今後翻訳される作品に期待できます。 2005/1/29 K-juro

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